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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)6341号 判決

原告

五十川靜代

被告

尾崎司

主文

一  被告は、原告に対し、二七七三万四二六八円及びこれに対する平成三年一〇月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その二を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、四四九八万一二七七円及びこれに対する平成三年一〇月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  請求根拠

自賠法三条

二  争いのない事実並びに証拠により容易に認められる事実(争いのない事実については証拠を掲記しない。)

1  交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

〈1〉 発生日時・天候 平成三年一〇月二日(水曜日)午後七時ないし七時二〇分ころ(晴)

〈2〉 発生場所 大阪市都島区中野町三丁目八番七号先路上

〈3〉 加害車 普通乗用自動車(大阪七七ま七四一〇。以下「被告車」という。)

運転者 被告(昭和一八年四月七日生まれ。本件事故当時四八歳)

〈4〉 被害者 原告(昭和一二年六月一一日生まれ。本件事故当時五四歳。女性。)

〈5〉 事故態様 東から西に進行していた被告車が、上記発生場所の信号機による交通整理の行われていない交差点(以下「本件交差点」という。)で、北から南へ向かって自転車で横断中の原告に衝突した。

2  責任

被告は、被告車を自己のために運行の用に供していた者であり、自賠法三条に基づき原告に対する損害賠償責任を負う(弁論の全趣旨)。

3  傷害

原告は、本件事故により、頭部外傷Ⅰ型、左後頭部裂創、左大腿骨骨折、右下腿裂創、左脛骨・腓骨骨折、右第一中手骨骨折、第五腰椎圧迫骨折、左足部打撲、後頭部挫創、全身打撲、右肩腱板断裂、頸椎症、脊柱管狭窄症、神経因性膀胱障害、架工歯破損、両眼外傷性調節衰弱などの傷害を負った(甲二ないし五)。

4  治療

(一) 明生病院

(1) 入院

平成三年一〇月二日から平成八年二月四日まで、八回、合計四一四日間(甲二)

(2) 通院

平成四年三月一六日から平成八年一二月二八日まで、実通院日数四四二日間(甲六)

(二) 関西医科大学付属病院通院

平成六年七月一一日から平成八年一二月一七日まで、通院実日数三一日間(甲三)

(三) 高橋歯科医院通院

平成四年六月二九日から同年一〇月二日まで、通院実日数七日間(甲四)

(四) 福地眼科京橋分院通院

平成三年一〇月二八日から平成四年六月二九日まで、通院実日数六日間(甲五)

5  症状固定日

原告は、平成八年一二月二八日に症状固定と診断された(甲六)。

6  損害

(一) 治療費 五〇〇万七〇九二円

上記の金額の内三八一万二八九二円については争いがなく、その余については甲九、一〇により認められる。

(二) 装具代 二六万六〇〇〇円

争いがない。

(三) 付添看護費 二五五万一四九八円

上記の金額の内一五七万三七四六円について争いがなく、その余については甲一一により認められる。

(四) 入退院・通院交通費 七七万九三一五円

上記の金額の内四三万七三六五円について争いがなく、その余について甲二二により認められる。

(五) 入院雑費 五三万八二〇〇円

上記の金額の内一一万七三九〇円について争いがなく、その余について入院期間に照らして相当と認められる。

7  既払金

(一) 自賠責保険から四六一万円

(二) 被告加入の任意保険会社から六二八万七三九三円

(三) (一)及び(二)合計 一〇八九万七三九三円

三  争点とこれに対する当事者の主張

1  原告の過失

(被告の主張)

原告は、飼犬の散歩中に本件事故に遭遇したものであるが、原告は飼犬に引綱を付けずに散歩させており、飼犬が北から南に向けて横断したのに続いて、原告が左方(東)の安全確認をせずに、無灯火の自転車に乗って急に飛び出したために、東西道路を東から西へ進行していた被告車に衝突したのであり、大幅な過失相殺をすべきである。

2  原告の後遺障害の程度及び本件事故との因果関係

(原告の主張)

本件事故により原告には、以下の後遺障害が残った。

〈1〉 第五腰椎圧迫骨折後変形治癒、脊柱管狭窄症による腰椎部運動障害(自賠法施行令二条別表八級二号)

〈2〉 両下肢筋力低下(同表一二級七号)

〈3〉 左大腿骨・左脛骨の変形(同表一二級八号)

〈4〉 左下肢一センチメートル短縮(同表一三級九号)

〈5〉 両変形性膝関節症、左膝神経症状(同表一四級一〇号)

〈6〉 神経因性膀胱

上記のとおり、原告には一三級以上に該当する障害が二以上存在するから、重い方の障害である〈1〉の八級を一級繰り上げた併合七級に該当する(自賠法施行令二条一項ニ)。

(被告の主張)

原告の第五腰椎圧迫骨折に伴う特段の神経学的異常所見は認められず、腰椎部の運動障害と本件事故との間には因果関係がない。

したがって、本件事故により原告に残った後遺障害は、脊柱変形(一一級七号)及び原告主張の〈4〉、〈5〉であり、併合一〇級に該当する。

3  損害

(原告の主張)

原告には、前記二5記載のもの以外に以下の損害が発生した。

(一) 休業損害 五〇〇万〇〇〇〇円

原告は、本件事故当時主婦であったが、事故後少なくとも三年間は家事に従事できなかった。三年間の家事労働を賃金に換算すると上記金額となる。

(二) 逸失利益 一二一三万〇三九二円

後遺障害七級、労働能力喪失率五六パーセント、就労可能年数五九歳(病状固定時)から六七歳までの八年間、平成八年女子労働者全年齢平均賃金三三五万一五〇〇円に基づいて算出すると上記金額となる。

(三) 入通院慰謝料 四五〇万〇〇〇〇円

(四) 後遺障害慰謝料 九五〇万〇〇〇〇円

(五) 症状固定後の治療費・通院交通費 一一五一万六一七三円

原告は症状固定後も症状悪化を防止するため、明生病院及び関西医科大学付属病院に通院しているが、原告が症状固定時から平均余命まで生存するとした場合の将来の治療費及び通院交通費を、平成一一年一月から同年一〇月までの実績に基づいて算出すると上記金額となる。

第三当裁判所の判断

一  争点1(原告の過失)について

1  本件事故の態様

証拠(甲五八ないし六七、乙一、五ないし八、原被告各本人尋問の結果)によれば、本件事故の態様は以下のようなものであったと推認される。

被告は、被告車を運転して、本件事故現場の交差点の約六〇メートル東の丁字形交差点で左折して、東西に走る市道に進入し、そのまま時速約四五キロメートルから五〇キロメートルの速度で西進した。被告は、本件交差点の手前で原告の飼犬が本件交差点東側を北から南に横断するのを視認したが、特に減速措置を執ることなく進行を続けた。

他方、原告は、本件交差点の西北角で一時停止した後、飼犬に続いて本件交差点を西北から東南に自転車に乗って斜めに横断を開始した。

被告は、原告が自転車に乗って本件交差点を横断しているのを約一八メートル手前で発見し、急制動をしたが、間に合わずに被告車前部を原告の自転車左側に衝突させ、原告を自転車ごと転倒させた。原告は、衝突地点から約四・八メートル西に跳ね飛ばされた。なお、原告は衝突の直前まで被告車に気が付かなかった。

2  被告の過失

本件事故当時、被告進行道路には、路上駐車車両が多く、さらに夜間ということもあり、見通しが悪かった。したがって、被告としては、駐車車両の陰から歩行者や自転車が飛び出さないかなど前方に十分注意し、必要に応じて直ちに減速等の措置をとれるような運転を心がけるべきであった。

さらに、被告は、原告に衝突する前に首輪をつけた犬が交差点を横断するのを見たと本人尋問で述べているが、本件事故現場周辺は店舗と住宅の混在する地域であり、このような地域の交差点で首輪をつけた犬を見かければ当然飼犬であると考え、飼主がその後に続いて横断する可能性を予測して減速・徐行するべきであった。

なお、制動前の被告車の速度は、路上に残された被告車のスリップ痕が約一一・七メートルであることからすると、時速約四五キロメートルから五〇キロメートルであったと推測され、現場の制限速度である時速四〇キロメートルを若干超過していたと認められる。

被告は、上記のような運転上の注意義務に違反し、漫然と制限速度を上回る速度で被告車を進行させたため、本件事故を惹起したものであり、事故の主たる原因は、被告の過失によるものと認められる。

3  原告の過失

本件事故当時、本件交差点付近は上記のとおり見通しが悪く、また被告進行道路は原告進行道路に対して優先道路の関係にあるのであるから、原告も横断に際しては十分注意を払うべきであった。しかも、本件事故が発生したのが夜間で被告車両が前照灯を点灯していたこと、被告車が左折した丁字形交差点から本件交差点まで約六〇メートルあること、原告が左前方に向かう方向での斜め横断をしていたことからも、原告が横断前及び横断中に左方及び自己の進行方向に通常の注意を払っていれば、被告車に気がつかないということは考え難い。

しかるに、原告が衝突の直前まで被告車に気が付かなかったということは、原告が左方に十分な注意を払っていなかったものと考えざるを得ず、原告にも過失が認められる。しかも原告は交差点を斜めに横断しているが、この運転態様も不適切なもので、仮に原告が最短距離で横断をしていれば事故を防止又は被害の程度を軽減できた可能性がある。

また、そもそも市街地で引綱をつけずに飼犬を散歩させるという行為自体、交通事故を招く危険性の高い行為であり、この点も原告の落ち度として考慮しなければならない。

ただし、原告の自転車の速度及び照明の点灯の有無については認定するに足りる証拠がないため、これらの点を原告の過失として考慮することはしない。

4  原告・被告の過失割合

以上、検討した事故態様及び原告・被告それぞれの過失を総合考慮すると、本件事故の発生についての原告と彼告の過失割合は、原告が二割、被告が八割と認定することが相当である。

二  争点2(原告の後遺障害の程度及び本件事故との因果関係)について

1  第五腰椎圧迫骨折後変形治癒、脊柱管狭窄症による腰椎部運動障害

原告の主治医である明生病院石田尊啓医師作成の平成九年二月一三日付け後遺障害診断書(甲六)には、原告の後遺障害の内容として「常時一本杖歩行」、「脊柱の障害 第五腰椎変形治癒」、「運動障害 胸腰椎部 前屈二〇度、後屈一〇度、右屈三〇度、左屈二〇度、右回旋四〇度、左回旋四〇度」との記載があり、同医師は、原告代理人の弁護士法二三条の二第二項に基づく照会(以下「二三条照会」という。)に対して平成一〇年一〇月一二日付けで、原告の腰椎部の運動障害は本件事故による受傷に起因するものと考えられると回答している(甲二〇の二)。

これに対し、被告の加入する自賠責保険会社の自賠責サービスセンター佐久間保所長は、当裁判所の調査嘱託に対して、第五腰椎圧迫骨折に伴う病的反射、知覚異常、筋萎縮等の特段の神経学的異常所見が医証上認められないこと、一椎体の損傷から腰椎部の運動障害は考えがたいことなどを理由として、原告の腰椎部運動障害は、本件事故に起因するものではなく、単なる疼痛か自覚症状と考えられるとの意見を述べている。

しかし、石田医師は、原告代理人の再度の二三条照会に対して、原告のような馬尾神経レベルでの損傷の場合病的反射は出現しないこと、平成七年七月一〇日時点で左足趾、左大腿、右足趾に知覚鈍麻が認められたこと、平成六年九月七日時点で左大腿周囲径二・五センチメートル、左下腿周囲径〇・五センチメートルの筋萎縮が認められたことに加え、平成七年五月一三日のMRI検査で第五腰椎圧迫骨折に伴う椎体後方及び椎間板も含めた後方への突出及びそれによる脊髄の圧迫、脊柱管狭窄が認められたこと、同年七月一〇日時点で第五腰椎領域で知覚鈍麻、坐骨神経進展テスト陽性、坐骨神経障害、歩行障害(間欠性跛行)等が認められたこと、同年同月二〇日のミエログラフィー検査で第四・第五腰椎部の脊柱管狭窄、神経根欠損が認められたこと、同年九月六日の筋電図で左下腿三頭筋神経原性変化が認められたことを指摘している(甲五二の二)。石田医師は、原告を現に診察・治療している主治医であり、その所見は基本的に信頼するに足りると考えられ、同医師の所見は第五腰椎圧迫骨折によって脊髄が圧迫され、神経障害が生じた結果、原告に腰椎部運動障害が発生していたことを推認させるものである。

原告は平成七年一〇月六日に、明生病院で脊柱管拡大手術を受け、これにより麻痺症状は顕著に改善し、足趾の運動も改善した(甲二)。しかしながら、上記手術後も筋萎縮は残存し、平成八年一二月二八日の症状固定時で左大腿周囲径に二・五センチメートル、左下腿周囲径に一・五センチメートルの萎縮が認められた(甲六)。そして、原告の第五腰椎圧迫骨折は、程度としてかなりきついものであり、著しい破壊的変化であったとの石田医師の所見(甲五二の二)からすると、原告の脊柱管狭窄症は上記手術によっても完全には回復せず、そのために歩行障害(常時一本杖歩行)が残存したものと認めるのが合理的である。

すなわち、原告の腰椎部運動障害(及びこれによる歩行障害)は、本件事故による第五腰椎圧迫骨折に起因するものと認められる。

2  両下肢筋力低下及び左大腿骨・左脛骨の変形

後遺障害診断書(甲六)によれば、原告にこれらの症状・変形が存在すること自体は認められるが、その程度は十分明らかではなく、後遺障害として認定するに足りる証拠はないといわざるを得ない。

3  左下肢一センチメートル短縮及び左膝神経症状

原告にこれらの後遺障害が残ったことは当事者間に争いがない。

4  神経因性膀胱

原告代理人の二三条照会に対して関西医科大学付属病院泌尿器科松田公志医師は、平成一一年一月二七日付けで、原告の排尿障害は膀胱利尿筋の収縮障害及び知覚障害による神経因性膀胱が原因と考えられ、神経因性膀胱の原因は、原因となる他の疾患がないこと、六一歳の女性で原因不明の排尿障害はまれであること、第五腰椎圧迫骨折による馬尾神経障害によって利尿筋収縮障害及び知覚障害が生じうること、神経学的検査の結果第四腰椎以下の知覚障害を認め、馬尾神経の障害と矛盾しないことから、第五腰椎圧迫骨折の可能性が高いと回答している(甲二一の二)。

上記回答は、特段不合理な点はなく、信用できる。

よって、原告の神経因性膀胱も本件事故による第五腰椎圧迫骨折に起因するものと認められる。

5  以上のとおり、原告には、本件事故に起因して少なくとも腰椎部運動障害、左下肢一センチメートル短縮、左膝神経症状及び神経因性膀胱の後遺障害が認められ、自賠法施行令二条別表規定の一三級以上の後遺障害が複数存在するので、最も重い腰椎部運動障害(八級二号)を一級繰り上げて、伴合七級の後遺障害を認めるのが相当である。

三  争点3(損害)について

1  本件事故により原告に発生した損害のうち、以下の費目及び額については前記第二、二5記載のとおり、当事者間に争いがないか、証拠により容易に認定することができる。

(一) 治療費 五〇〇万七〇九二円

(二) 装具代 二六万六〇〇〇円

(三) 付添看護費 二五五万一四九八円

(四) 入退院・通院交通費 七七万九三一五円

(五) 入院雑費 五三万八二〇〇円

(六) (一)ないし(五)合計 九一四万二一〇五円

2  休業損害 四六三万九五〇〇円

原告は、本件事故当時、株式会社五十川硝子の監査役の地位にあったが、実質的には主婦専業であった(原告本人)。前記認定の原告の受傷内容・程度、入院期間等に照らすと本件事故後少なくとも一年六月間は冢事を行うことができなかったと認められる。

原告の主たる休業期間である平成四年の女子労働者の産業計・企業規模計・学歴計・平均賃金額は三〇九万三〇〇〇円であり、これを基礎に一年六月間の休業損害を算出すると以下の計算式のとおりである。

三、〇九三、〇〇〇÷一二×一八=四、六三九、五〇〇円

3 逸失利益 一二一三万〇三九二円

原告の後遺障害は七級に該当し、その労働能力喪失率は五六パーセントと認められる。原告は症状固定日である平成八年一二月二八日の時点で五九歳であり、就労可能年数は六七歳までの八年間と認めるのが相当である。原告の後遺障害は短期間に消失する性質のものとは認められないので、労働能力喪失期間も就労可能年数と同様八年間と認められる。

平成八年の女子労働者の全年齢平均賃金は三三五万一五〇〇円であり、八年間に相当するライプニッツ係数は六・四六三二である。

したがって、中間利息控除後の原告の逸失利益は以下の計算式のとおり、一二一三万〇三九二円と算出される。

三、三五一、五〇〇×〇・五六×六・四六三二≒一二、一三〇、三九二

なお、原告は、事故の前後を通じて株式会社五十川硝子の監査役として年間一〇〇万円程度の役員報酬及び同社の株主として年間四〇万円程度の利益配当を得ているが、これらの収入は労働の対価とはいえないので、逸失利益の算出に際して考慮はしない。

4 入通院慰謝料 四五〇万〇〇〇〇円

原告の入通院期間、原告の症状が重傷であったこと、被告が事故後現在に至るまで原告に対して直接の謝罪を一切しておらず、原告に対する対応が極めて不誠実であったこと、被告が本件訴訟における本人尋問においても責任逃れとも受けとれる曖昧な供述に終始し、原告に多大な苦痛を与えたことについての真摯な反省をしているとは認めがたいことなどを考慮すると原告の精神的苦痛を慰謝するには上記の金額が相当と認められる。

5 後遺障害慰謝料 九五〇万〇〇〇〇円

原告の後遺障害は前記認定のとおり、併合七級に該当することから上記の金額が相当である。

6 症状固定後の治療費・通院交通費 五二五万二五八〇円

原告は、症状固定後も、本件事故の後遺障害である第五腰椎圧迫骨折変形治癒、両変形性膝関節症、排尿障害等の治療及び症状の悪化防止のために明生病院及び関西医科大学付属病院に通院している(甲七、一四、一九、原告本人)。これに関して原告が支出する一か月当たりの治療費及び通院交通費は合計少なくとも三万円であることが認められる(甲五三、五五、五六)。そして、原告の症状が固定した五九歳の女性の平均余命は二六・八〇年であるが(甲五七)、原告の後遺障害は今後改善する見込みは乏しいと認められるから、原告は症状固定後もその生存期間にわたって通院治療を余儀なくされる蓋然性が高い。

二六・八〇年に対応するライプニッツ係数は一四・五九〇五であるから、中間利息控除後の原告の症状固定後死亡までの治療費及び通院交通費は以下の計算式のとおり、五二五万二五八〇円と認められる。

三〇、〇〇〇×一二×一四・五九〇五=五、二五二、五八〇

7 合計

以上一から六までの損害額を合計すると四五一六万四五七七円である。

8 過失相殺

前記認定のとおり、本件事故の発生については原告の過失も寄与しており、その割合は二割とみることが相当であるから、上記損害額から二割を控除すると残額は三六一三万一六六一円となる。

9 損益相殺

前項の額から、当事者間に争いのない既払金合計額一〇八九万七三九三円を控除すると残額は二五二三万四二六八円である。

10 弁護士費用

原告が本訴追行のために原告代理人を委任したことは当裁判所に顕著な事実であり、上記認定の損害額等に照らすと、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は二五〇万円と認められる。

四  以上のとおり、原告の請求は、被告に対し、二七七三万四二六八円の支払を求める限度で理由があるから、その限度でこれを認め、その余を棄却することとする。

(裁判官 平野哲郎)

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